命を守ることは、心を守ること。―養護教諭・谷村萌花先生の挑戦―
- 公開日
- 2026/07/23
- 更新日
- 2026/07/23
今日の出来事
「あの時、本当にあれでよかったのだろうか。」
救命活動を経験した人だけが抱える問いがあります。
「もっと何か、できたのではないか。」
その言葉を口にした時、養護教諭・谷村萌花先生の目には涙が浮かんでいました。
今回、本校で実施した心肺蘇生法・AED講習は、前任の土屋主任養護教諭から受け継いだ大切な取り組みです。その思いを引き継ぎ、企画立案から南多摩病院との調整、当日の運営まで、谷村先生が中心となって準備を進めてきました。
しかし、この講習は単に心肺蘇生法やAEDの操作を学ぶ授業ではありません。
谷村先生には、休日に偶然居合わせた現場で人命救助に当たった経験があります。そして昨年、本校前で交通事故が発生した際にも、誰よりも早く現場へ駆け寄り、ためらうことなく一次救命処置を開始し、救急隊へ命をつなぎました。
周囲から見れば冷静沈着な対応でした。
けれど本人は違います。
「現場では毎回、足がすくみます。手も震えます。救命活動が終わった後も、『もっと早く動けたのでは』『別の方法があったのでは』と何度も何度も考えてしまうんです。」
命と向き合う人ほど、自分を責め続ける。
それでも谷村先生は現場へ向かいます。
「自分が動かなかったことで、救えたかもしれない命を失いたくないから。」
その一言には、何よりも重い覚悟が込められていました。
一方で、谷村先生が毎日向き合っているのは、目の前の命だけではありません。
保健室には、体調不良だけでなく、人間関係、家庭の悩み、不安や孤独など、誰にも言えない思いを抱えた子どもたちが訪れます。その一つ一つに耳を傾け、子どもたちの苦しみを自分自身のことのように受け止めています。
夏休みに入っても休むことなく、デートDVや性暴力、自傷行為、自殺予防など、近年深刻化する課題について学ぶ研修へ足を運び続けています。
「子どもたちの命だけではなく、心も守りたい。」
その思いが、谷村先生を学び続けさせる原動力です。
救命とは、止まった心臓を動かすことだけではありません。
苦しみを抱える子どもに寄り添い、「あなたは一人じゃない」と伝えることもまた、命を守ることにつながります。
小柄で、いつも穏やかな笑顔を見せる谷村先生。その姿からは想像もできないほどの強い使命感を胸に、今日も子どもたちの命と心に向き合っています。
今回、生徒たちが学んだ心肺蘇生法は、誰かの命を救うための技術です。しかし、その技術の根底にあるのは、「目の前の誰かを見捨てない」という一人の養護教諭の願いです。
その願いは、いつか生徒たちが大切な誰かの命を守る勇気となり、そして誰かの心に寄り添える優しさへと受け継がれていくことでしょう。