学校日記

10月20日 全校朝会「ノーベル賞」

公開日
2025/10/20
更新日
2025/10/20

校長室より




















 みなさんおはようございます。台風が来て大雨が降るなど、なかなか天候が安定しない日が続いていますが、「一雨ごとに季節が進む」という言葉があるように、一歩ずつ秋が深まり、冬が近づいているんですね。



 さて、今日は10月に行われた世界中の注目を集めたイベント、そしてそこで活躍した日本人のことについてお話します。 アルフレッド・ノーベル。今から200年近く前に、スウェーデンという国で生まれた発明家、化学者です。彼を世界的に有名にしたのは、皆さんも聞いたことのある「ダイナマイト」の発明でした。威力はすごいけれど、とても扱いが難しかったニトログリセリン、という物質を安定して持ち運び、用途に合わせて使用できるようにしたダイナマイトの発明は、人類の歴史を変えるほどの大きな出来事でした。ところが、彼の発明したダイナマイトは、当初想定していたような「工事」「トンネルの採掘」「ダムの建設」などの目的の他にもその威力を利用して「爆弾」などの戦争の道具を生み出していったのです。ある時自分のことを「死の商人」と紹介していた新聞記事を見つけたアルフレッド・ノーベルは、自分が一生懸命生み出したものが、恐ろしい戦争兵器に利用されていることにショックを受けました。そして自分の残した莫大な財産は、人類の進歩と平和のために役立ててほしい、という遺言を残したのです。そして誕生したのが「ノーベル賞」。そんな「ノーベル賞」は1年に一度、「人類の進歩と平和のために役立つ」という業績を上げた人や団体に贈られるとても名誉ある賞となりました。これまでにも日本人が何人も受賞してきたのですが、今年は「医学生理学賞」と「化学賞」という二つの部門において、日本人の研究者が受賞する、という嬉しい出来事がありました。世界最高の研究成果ですから、当然少し難しい内容ですが、何とか校長先生なりに皆さんに説明してみよう、と思っています。



まず、坂口志門さん。坂口さんはノーベル医学賞・生理学を受賞しました。大阪大学の研究者で、体を守る免疫(めんえき)のしくみを研究しています。私たちの体には、病気の原因となるウイルスや細菌を攻撃して体を元気に保とうとする「免疫」という仕組みがあります。でも、この免疫が強すぎると、正常で元気な自分の体、つまり敵だけでなく味方まで攻撃してしまうことがあります。坂口さんは、そのような免疫の暴走を防ぐ「制御性T細胞(せいぎょせいTさいぼう)」を発見しました。この細胞は、まるで車のブレーキのように、免疫の働きをコントロールして体を守っています。この発見によって、自己免疫疾患やがん治療の研究が大きく進みました。



続いて北川進さんです。北川進(きたがわ
すすむ)さんは、京都大学の研究者です。彼の研究テーマは、「金属有機構造体(MOF:モフ)」とよばれる不思議な物質。MOFは、分子の中にたくさんの“穴(あな)”や“部屋”がある構造をしています。さらに、この目に見えないほど小さいジャングルジムのような構造体は、その大きさを自由に変えることができるので、モノを構成している最小単位「分子」の種類によって通り抜けられるものと通り抜けられないものを振り分けることができるというのです。この特性を利用すると、例えば、




  • 空気中の二酸化炭素を集めて地球温暖化を防ぐ

  • 水が少ない地域で、空気から水を取り出す

  • 有害なガスを吸着して安全にする



そんな、地球を守る研究につながっています。「見えない分子の中にも、未来を変える空間がある」という信念を持ち続け、北川さんは30年以上もこの研究を続けたそうです。



さて、一見まったく違う分野の研究ですが、北川さんと坂口さんの学びには共通点があります。それは、どちらも「目に見えないミクロの世界を通して、人類、地球を守る研究」だということです。どんなに時間がかかっても、「この研究はきっと、だれかの役に立つ」と信じて続ける力。その信念が、ノーベル賞につながったのですね。 お二人の受賞から学ぶべきことは何でしょうか。たくさんありますが、特に次の三つは、皆さんにぜひ覚えておいてほしい、と思います。



 一つ目は「なぜ?」と思う力。世の中のほとんどすべてのことは、「なぜ」という問いからスタートし、解明されてきました。世の中のことなんて、「みんな分かっちゃってる」「みんながそう言ってる」という人がいるかもしれませんが、本当は「わかっていないこと」なんて無限にあるのです。「当たり前」を疑い、自分が納得できるまで「なぜだろう」を追究する、そんな姿勢が大切です。残念なことに、今は便利な世の中です。ネットで検索すると、何だかわかったような答えにすぐにたどり着きます。でも、それはすべて過去の記録なのです。一人一人の「なぜ」を大切にして、身の周りの世界を眺めてみましょう。きっと「?」が沢山見つかります。



 二つ目は「あきらめない」力。せっかく「なぜ?」と思っても、「ま、いっか」、「めんどくさい」、と片づけてしまったら、それでおしまいです。坂口さんは「20年」かけて免疫のブレーキの仕組みを明らかにしました。北川さんは、周りから「無理だよ」とか「ありえない」などと言われても決してあきらめず、「30年」かけて「金属有機構造体」を研究し続けました。興味をもったことは、とことん追求する、それが発見に繋がったんですね。



 三つめは「協力する」力です。これも先の二つと関係しています。「なぜ」と思い、「あきらめず」に研究を続けても、一人の力では考えも広がらないかもしれません。そんな時に大切なのは、周りの人を巻き込み、一緒に協力して成し遂げる力です。今回のノーベル賞受賞が決定した時のインタビューで、二人とも「長いこと一緒に研究を続けてきた仲間に感謝します」と言っていました。「協力する」力、一緒に何かを達成すると喜びも倍増することでしょう。



ノーベル賞を取るような人たちは、みんな特別な天才…と思うかもしれません。でも、「生まれつきの才能」ではなく、「なぜ」の気持ちを「あきらめず」に、仲間と「協力する」才能の持ち主なんですね。だから、この三つがあれば、皆さんにもできないことはありません。まずは「運動会」かな。「あきらめないこと」「協力すること」の才能を磨くチャンスにできますね。お話を終わります。