第1学期始業式校長講話(概要)
修了式の日、私は被災地の中学校から届いたお手紙の内容と東京駅伝での本校生徒の力走、高嶺小学校の児童の夢や希望の話をした中で、皆さん方が2年生・3年生になっても、被災地へのメッセージで見せた「心のエネルギー」を、これからもずっと見せ続けて欲しいというお願いをしました。
今日は皆さん方に「心のエネルギー」が、どれだけ一杯になったかを調べたいので、まずは本の朗読からスタートします。作者は望月ノワさんで「おばあちゃんからのおくりもの」という題です。 おばあちゃんが老人ホームへ入った。最近、色々なことを忘れちゃうからだ。 家族のことや、時間や、自分の家も 分からなくなって、時々ふらっと出かけては、道に迷っちゃう。 台所の火を点けたまま、消すのを忘れてしまって、火事になりそうなこともあった。 でも、僕はおばあちゃんが好きだ。おばあちゃんは、とても物知りで優しくて、毎年ぼくにマフラーを編んでくれた。学校へ持って行く雑巾も僕の名前を入れて縫ってくれた。お父さんも小さいころ、おばあちゃんに縫ってもらったんだって。 そして、僕を叱った後には、なぜだかいつも、僕より先に涙を流すんだ。 だから僕は、おばあちゃんが老人ホームに入るのは反対で、ずっと一緒に住みたかったけれど僕の家は、お父さんもお母さんも仕事をしているし、お母さんはおなかに赤ちゃんもいて、僕も学校があるから、話し合ってそう 決めたんだ。 おばあちゃんが入った老人ホームは、ぼくの学校の近くにあったから、僕はなるべく学校が終わると、老人ホームへ寄って帰った。 おばあちゃんは僕に会うたびに、まるで初めて会うお客さんを迎えるように「初めまして」って言った。だけど、おばあちゃんに会いに行けば行くほど、だんだん僕が来るのを楽しみにしてくれるようになった。 おばあちゃんの老人ホームでの生活はとても楽しそうで、僕も一緒に歌を歌ったり、おやつを食べたりした。 でも、おばあちゃんはいつまで経っても、僕がおばあちゃんの孫だってことを思い出せなかった。 「お母さん。お母さんも年をとったら、僕やお父さんのこと、分からなくなっちゃうの?」ぼくが 聞くと、 「おばあちゃんは病気だからねぇ・・・。」と、お母さんは言った。 「お父さん、お父さん。今度一緒におばあちゃんの所へ行こうよ。」僕が言っても、 「行っても父さんのこと、わからないだろうしなぁ・・・。」と、お父さんは おばあちゃんに会いに行かなかった。 ある日、いつものように僕が老人ホームへ行くと、おばあちゃんは風邪をひいてベッドで寝ていた。 僕はおばあちゃんのしわしわの手を握った。すると、おばあちゃんは突然ぱっと大きく目を開いて「良かった、お帰り。」と言い安心したように、また目を閉じた。そして次の日の朝、おばあちゃんは病院へ移り、一週間後にそっと息を引き取った。 おばあちゃんのお葬式の日、老人ホームのお姉さんが来て、僕に紙袋をくれた。「これ、あなたにだと思うの」何だろう?紙袋の中を見て僕は思わず、「あっ」と、声を上げた。そして、「お父さん!お父さん!これ見て!」僕は慌てて紙袋をお父さんに渡した。 「何だい?」紙袋を開けたお父さんの顔が急にしわくちゃになり、目から涙が どんどん溢れ出した。中に入っていたのは、お父さんの名前が刺繍された、ジグザグな縫い目の雑巾だった。おばあちゃんは、お父さんの小さい頃にそっくりな僕を、お父さんだと思って雑巾を縫っていたんだ。 お父さんは僕を、ぎゅっと抱き締めて泣いた。「お父さんの代わりに親孝行してくれてありがとう」 後でお母さんが話してくれた。お父さんは大好きなおばあちゃんの病気の姿を見るのが辛くて、会いに行けなかったんだって。 おばあちゃん。お父さんもお母さんも僕も皆おばあちゃんが大好きだよ!一杯一杯思い出をありがとう。ずっと 忘れないからね。 さて、この作品を読んで皆さんは、どういう風に思いましたか。私から一つ質問があります。この作品を聞いて、一番心の優しい人は誰だと思いますか、というのが質問の内容です。 おばあちゃんでしょうか、僕でしょうか、お父さんでしょうか、お母さんでしょうか、それとも老人ホームのお姉さんでしょうか。 私は、この作品を読んで一番心の優しい人は、この話をしっかり聞いてくれた皆さん方だと思います。 修了式にも言いましたが、今年度は「心のエネルギー」で一杯になる日本であり、東京都であり、八王子市であり、中山中でありたいと思います。一緒に作っていきましょう。 |
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