さて、私がそんな話を連想したのは、昨日付読売新聞の夕刊のトップを飾った 「 学力テスト低迷打開作戦 」 なる記事を読んだときのことでした。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20090420-O...
全国学力・学習状況調査 ( 以下、学力調査 ) は、今年で3回目となりました。 上記記事には、過去2回、都道府県別順位の低かった自治体の実施している施策が紹介されています。
例えば山口県では、県内の教員によって 「 全国学力テストの想定問題集 」 を作成し、授業で該当学年の小中学生に解かせているとか。 県教委の談話として 「 今年のテストで少しでも成果が出れば 」 という期待の声が載せられていました。
さて、ここで言う 「 成果 」 とは、何なのでしょう?
もし、過去の順位の低かった自治体が 「 順位を上げるため 」 の策を施し、順位の上がったことをもって 「 成果が出た 」 とするのであれば……と、そんなふうに考えたとき、先の定期検診の話が思い浮かんだのです。
新聞記事に出ていた各自治体の施策は、次のどちらを目的としているのでしょうか。
1.都道府県別の順位を上げること
2.生徒に基礎学力を定着させ、応用力も向上させること
もし、1だとしたら 「 定期検診の数値を良くすること 」 を目的としていることと同義であり、2だとしたら 「 日常の生活習慣などを改善すること 」 を目的とすることと同義ではないかと思います。
「 たとえ順位を上げることが目的とはいえ、勉強させることに変わりはないのだから、それはそれで結構なことである。」 と言われれば、これも定期検診の譬え ( たとえ ) と同様、一理あるとは思います。
ただし、その一方で、「 調査前に類似問題を反復練習した生徒は、確かに学力調査の点数は上がるに違いない。 しかし、それをもって 『 基礎学力が定着した。応用力も向上した 』 と解釈し満足してしまうのであれば、かえって危険なのではないか 」 という危惧も抱きます。 これもまた、定期検診の譬えと同じです。
教育現場では、集団に準拠した評価 ( いわゆる相対評価 ) から、目標に準拠した評価 ( いわゆる絶対評価 ) に移行して8年になります。
生徒を、集団における位置づけ ( その生徒が集団の中のどこに位置するか ) によって評価するのではなく、あらかじめ定められた目標に対してどこまで到達できたかによって評価するようになったのです。
今や、この評価法はすっかり定着しています。
かたや自治体の長や教育行政の中には、未だに相対評価から脱しきれない方も大勢いらっしゃるようです。 そういう方々の気になることは 「 順位は何番か? 」 「 平均より上か、下か? 」 「 第1位とは何点差か? 」……。
これもまた、他者との比較を気にする国民性ゆえでしょうか。
都道府県別に順位をつければ、1位から47位まで出るのは当たり前です。 平均点を出せば、それを上回る所と下回る所が出るのも当たり前です。
したがって、そういう 「 集団における位置づけ 」 を気にしても仕方がないのです。 本来気にするべきことは、「 あらかじめ定められた目標に対する到達度 」 なのです。
旧態依然とした評価法から脱しきれない方々に目を覚ましていただくためにも、文部科学省は 「 学力調査の到達目標 」 を、もっと明確かつ前面に打ち出すべきだと思います。 そうすれば、各自治体や学校は 「 順位 」 や 「 平均より上か下か 」 ではなく、「 その目標に到達できたか、できなかったか 」 に注視するようになるはずです。
その結果を受けて講じられる施策は、おのずと 「 順位を上げるため 」 のものではなく、「 国の定める目標に到達するため 」 のものとなるはずですし、それこそが教育現場の求めている施策と一致するのです。
校長 武田幸雄