3月28日(土)
本日付 読売新聞朝刊の 「 くらし 教育 」 面において、さる19日に行われた本校の卒業式のことを取り上げてくださいました。
編集委員 中西茂さんのコラム 「 教育を診る 」 の中で、校長式辞について貴重な紙面を割いてくださっています。
内容はさておき、あまり他に例を見ない ( ある意味、破天荒な?)式辞に、目を留めてくださったのかと思います。
コラムの最後で、中西さんは次のように述べていらっしゃいます。
「 この春、中学校を巣立った子供たちが30歳になるころ、日本は、日本の教育はどうなっているのだろう。 変化の激しい時代だが、未来を前向きに考えたい。」
…おっしゃるとおりだと思います。
「 未来を前向きに考える 」
アンジェラ・アキさんの「 手紙 拝啓十五の君へ 」 の歌詞にも「 いつの時代も悲しみは避けては通れないけれど 笑顔を見せて今を生きていこう 」 とあり、私自身、式辞を通して卒業生に伝えたかったメッセージのひとつでもあります。
卒業生にどこまで伝えられたかはわかりませんが、いつか年月を経てアンジェラさんの 「 手紙 」 を聴いたとき、わずかな記憶の片隅から式辞を思い出し、前向きになってくれる卒業生がいるとしたならば幸いです。
校長 武田幸雄
拝啓 三十の君たちへ。
この手紙を読んでいるあなたは、どこで何をしているのだろう。
君たちが別所中学校を卒業してから15年もの歳月が流れましたね。
かつて母校で学んだことを、今でもしっかり覚えていますか。
拝啓 三十の君たちへ。
君たちは15年前、別所中学校で何を学んだのだろう。
国語、数学、理科、社会…。いろいろな教科の内容を、いろいろな先生から学びましたね。
だけど、先生たちが今も君たちに覚えておいてもらいたいと願っているのは、教科書や黒板に書かれていた知識ではないのです。
もっと血の通った、そう、それは、先生や友達、先輩や後輩とのふれあいの中から生まれた、笑いや涙、感動や興奮…、つまり 「 感性 」 という名のノートに君自身が書き込んだ、たくさんの思い出なのです。
拝啓 三十の君たちへ。
私は今でも覚えていますよ。 君たちは私と同じ18年前、初めて別所中の門をくぐり、3年間をともに過ごしました。
君たちは、どの学年よりも歌声が大きくて、どの学年よりも挨拶の声が大きいものだから、心なしか体つきまで大きく見えたものです。
だからといって、態度まで大きく見えたとは言いませんよ。
拝啓 三十の君たちへ。
私はその3年間で、しばしば君たちに裏切られ、しばしば君たちのことを叱り、しばしば君たちの笑顔に励まされ、しばしば君たちから勇気をもらいました。
そして、あの頃君たちが与えてくれたたくさんの感動は、私が教員だった頃の、忘れられない美しい思い出として残っています。
拝啓 三十の君たちへ。
生意気盛りだった君たちも、今やほとんどの人が社会の第一線で活躍していることでしょう。 年を重ねるごとに、現実の厳しさがわかってきたのではないでしょうか。 自分もまた親となって、君たちのお父さん、お母さんが味わった苦労を、実感している人もいるでしょう。
大人になるということは、決して楽なことではないということがわかりましたか。 大人になってから流す涙だって、あるのですよ。
でも、そんなときは、あの頃流行っていたアンジェラ・アキさんの 「 手紙 」 という歌を思い出してください。 その中に、こんな歌詞があったはずです。
『 いつの時代も悲しみを避けては通れないけれど、
笑顔を見せて今を生きていこう 』
拝啓 三十の君たちへ。
君たちが生きる15年後は、どんな世の中ですか。
世界には、まだ戦争を行っている国がありますか。
今日食べるものがなかったために、飢えて死んでいく子どもはいますか。
人々が、貧困や肌の色、宗教や人種によって差別されない世の中ですか。
拝啓 三十の君たちへ。
君たちが暮らす15年後、この国は、あの頃とどこが変わり、どこが変わっていないのですか。
何を手に入れて、何を失ったのですか。
西暦2024年。
この国は、平和を愛し、戦争を憎む国であり続けていますか。
自分のことよりも、国民の幸せを願う人が政治を行っていますか。
人々の中に、自分のことだけでなく他人のことを思いやれる心はありますか。
社会や学校から、いじめはなくなっていますか。
「 親 」と呼ばれる人たちは、わが子のしつけや教育に責任を持っていますか。
学校や学校の先生は、信頼に足る存在になっていますか。
拝啓 今私の目の前にいる十五の君たちへ。
今から15年後、君たちが30歳になったとき、この国が、そういう国であるためには、君たち一人ひとりの力が必要なのです。
いつか君たちがどんな道に進もうと、一人ひとりがこの国をつくり、この国を支えていくという自覚と、誇りと、責任を持って生きていってください。
15年後のこの国を、どうかよろしくお願いします。
最後に、君たちの旅立つ新しい世界が、希望の光に満ちあふれていることを、心から願っています。
卒業おめでとう。 お元気で、さようなら。
追伸 三十の君たちへ。
君たちが別所中学校を巣立ってから、15年の歳月が流れました。 そろそろ同窓会をやってもいい頃ではありませんか。 そのときにはぜひ、私たちにも声をかけてください。 自分の人生を、自分の足でしっかりと歩んでいる君たちに会えることを、楽しみにしています。
平成21年3月19日
八王子市立別所中学校長 武田幸雄