第二十三回卒業式

 六年生の皆さん、卒業おめでとうございます。そして、保護者の皆さん、小学校の卒業を迎えるこの日まで、様々なご苦労があったかと思います。お子様の卒業に心からお祝いを申し上げます。おめでとうございます。
 日に日に春らしさを増していくこのよき日に、多くのご来賓の皆様のご臨席を賜り、このような卒業式を開催できましたことは、まことに喜ばしいことです。お忙しい中をお越しいただきましたご来賓の皆様に、心より感謝申し上げる次第です。ありがとうございます。

 さて、卒業生の皆さん、私は今、四十五名の皆さんに卒業証書を渡し、八王子市立秋葉台小学校の卒業を認めました。小学校を卒業し、四月からは、児童ではなく生徒となる皆さんに、私から一つ話をします。

 人間の心は、他の動物に比べて極めて特徴的です。なぜ人間にだけこのように特別な心が進化したのでしょうか。そして、心を大切に育てるためにはどうしたらよいでしょうか。
 人間の心は、人と人との関わり、人と人とのつながりの中で進化してきました。このことは、皆さん一人一人の心の成長についてもいえることです。心を育てるためには、安心できる人とのつながりを築くことが必要なのです。

 動物には単独で行動するものと集団で行動するものがあります。人間はどちらですか。人間は皆で協力してはじめて生きていくことのできる動物です。一人では生きていけません。したがって、コミュニケーションは人間にとって極めて大切な能力になります。
 私たちは、コミュニケーションというと言葉によるものをすぐに思い浮かべます。しかし、まだ言葉を話すことのできない、生まれたばかりの赤ちゃんをよく見て見ると、人間が他の人とつながろうとする力はもっと本質的なものだということが分かります。赤ちゃんは生まれてすぐのころから周りの様子を注意深く観察しています。そして相手の行動を予測します。周りの人に反応します。だから、言葉を覚えていくことができるのです。つまり、相手を理解し、つながろうとする力が先にあるから言葉を覚えることができるのです。人類が言葉を進化させてきた道筋もこれと同じだと思われます。
 さて、言葉が身についてくると人間独特の心の世界は広がります。言葉は、人間の心を豊かにしました。言葉があれば、過去のことを思い出したり、未来のことを夢見たりできます。素晴らしいことです。
 ところが、ここには落とし穴があります。どのような落とし穴でしょうか。言葉を使えば嘘をつけるという落とし穴です。コミュニケーションで大切なことは安心、信頼です。にもかかわらず、もし人間が、言葉をひたすら嘘をつくことに使ったとしたならば、人々はバラバラになり、言葉は人類の生存にとって都合の悪いものになったでしょう。そして言葉は退化するか、言葉のために人類が絶滅するかのどちらかであったはずです。しかし、そうなりませんでした。どのように解決したのでしょうか。人類は言葉だけに頼らなかったのです。他のコミュニケーションも同時に発達させてきたのです。また、誠実さや正義、道徳心などの心も進化させてきました。現時点ですべては解き明かされていませんが、例えば人間が相手の表情を読み取る能力は、相当なもののようです。また、嘘をつけば心が痛み、正直に生きようとする心も人類にとって有利に働く能力の一つとして進化してきたのです。

 人類は言葉を巧みに使いながらも、直接会って一緒に行動し、感情を読み取り、共感し合うことを通じて心を進化させてきたのです。このような視点で、皆さんがこれから飛び立つ社会を見ると、直接顔を合わせることなくコミュニケーションできる携帯・メールの普及や極端な個人主義など心配なことがたくさんあります。これは、これまでの人類の進化にとって予想もしなかった大事件かも知れません。はたして人類はこの大事件を乗り越えて行けるのでしょうか。若い方に大きな期待がかかるところだといえるでしょう。

 卒業生の皆さん、卒業後もしっかり勉強して豊かな言葉による豊かな心の世界を広げてください。そして、同時に、直接顔を合わせて共に行動することの大切さを忘れないでください。心は安心できる、人とのつながりによって進化してきたのです。そのことを自覚し、大切にすることが、皆さんを、いやひょっとしたら皆さんだけではない人類全体を幸福に導くのではないかと思います。
 皆さんの活躍を心から祈っています。

    平成二十五年三月二十二日 卒業式の校長式辞より

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